2006年4月23日

今ドイツでヒット中の、東ドイツの国家保安省(シュタージ)の問題を扱った映画「Das Leben der anderen」は、統一以降、東ドイツの問題を扱った作品の中では、最高傑作の部類に属するでしょう。私はドイツに来てから、シュタージについてはずいぶん取材して原稿も書いてきましたが、テーマの扱い方から細部に至るまで、すばらしい出来でした。タイトルの一部になっているXX/7は、国家保安省 第20部の第7課の意味で、教会関係者や芸術家を監視対象とする課でした。ブランデンブルク州の首相や連邦運輸大臣を務めた、シュトルペ氏が教会の弁護士だったために、監視し情報を得ていた課です。私は丸善ライブラリーの「新生ドイツの挑戦」のために、この課については随分現地で取材したので、昨日の映画は大変興味深く観ました。今はもはや感じられなくない社会主義時代の東ドイツの悲しい雰囲気、またシュタージの監視、盗聴、尋問テクニックの細部も、よく再現されていました。冒頭に出てくるシュタージ幹部養成学校は実際に存在し、実際にシュタージ職員の卒業論文が残っています。

ハンナ・アーレントが書いた「Banalitaet der Boesen」は、ナチスだけでなくシュタージ問題にもそのままあてはまります。そのことを、シュタージの軍曹を演じる主演男優は、みごとに表現していました。

もっとも、シュタージの対外諜報機関であるHVAの一部のメンバーを除くと、彼らの大半は熱狂的な体制信奉者であり、監視対象に憐憫の情を抱いて内部反抗を行うというのは、現実にはほとんどなかったと思います。特に第20部の第7課の人間には、こりかたまった人が多いようです。そうでないと、あのような薄汚い日常業務は、なかなかできないでしょう。私も取材していて、ナチス的要素の継続性を、シュタージの人々の間に強く感じました。

西ドイツ人の監督は、この作品によって素晴らしいデビューを果たしました。